夜陰にふと目が覚め、自分がどこにいるものかとちょっと混乱。
撮影での遠出やそこからのホテル暮らしが多い身なので、ままあることだが、
たまに病室で目覚めることもあったのは焦ったものだ。
“最近はないけどなぁ。”
とある“かつての”無茶し放題だった自分には珍しいことではなかったため、
今の自分がそうまでの怪我を負うなんてと、
いろんな辻褄が合えば合ったで、
スケジュールに穴をあけないかなどなどと細かいところへ柄になく気をもみもした。
「……。」
傍らの窓からカーテンの合わせをくぐり抜けた月光の帯が、
いやにくっきりとしていて眩いなぁと意識に刺さった。
手合わせやら岩屋の登攀やら、毎日結構な運動を続けているのではあるが、
あくまでもドラマ映画という脚本の中での演技、つまりは虚構沙汰。
命のやり取りというよな真剣本気の戦いでなし
過酷だとまでは思わぬレベルなので、いっそ健康的な日々でもあり。
都内にいる時よりも解放的だなぁなんて感じつつ、
眠気が飛んでしまったようで、身を起こすと手を伸ばしてカーテンをもう少し引き開ける。
「…おお。」
窓の外、月光に照らされた桜が視野に入ってついつい見ほれる。
自分からも発光しているような淡い緋色が何とも見事で、
柄になくも感傷的になってしまうよなと苦笑をし、
そんなセンシティブな心持になったからだろうか、
ふと思い出したのが昼間にこそりと芥川から持ち出された相談事で。
『なんだか気になってしまうのですが、これって例の蠱惑の力の影響なんでしょうか。』
『あ?』
敦に関する例のあれ、
最初に気づいたのが中也だからか、そんな話をそおと振ってしまった彼だったらしく。
自分たち、前世の記憶持ちには効果が出ていなかったが、それは思い込みで実は…なのかなと
そわそわがしてならない彼なのだろうと察し、
“おやまあ。”
本来、誰かに訊くようなことではないこと、
そんな想いに翻弄されていますと明かすよなものだのに、
それへもまた気づけないほど実は切羽詰まっているものか。
“青いねぇ。”
当人は当人の物差しで深刻なのだろうから、ここは笑うところじゃあないなと小さく咳払い。
そして、
『だったらどうするね。』
『…それは。』
『そんな効果なのならと割り切りゃあいいのに、それは嫌なんだろう?』
『……。』
すっぱりと言ってやれば、
図星だったか言葉に詰まってうなだれる。
“わかりやすいのな。”
これでもう確定。
憎からず思っておりますと告白しているようなもの。
日頃からもあの子のすぐそばにいて、何かと構いつけてやっているようだが、
そんなして接しているうち、離れがたくなってしまったものか。
大人びて見えていても案外と初心な彼なのへ可愛げを見つけつつ、
自分の意思じゃあないのならどうしたいんだ?
だったらだったで離れたほうがいいのかなと思ったか?
敦のためにならないし自分も辛いしってか?
責めるでなし、からかうでなし、それは静かな声音でたたみかける。
『……。』
それなりの答えようを挙げられたにもかかわらず、即答できぬ彼であり。
そんな風に割り切れなくて、
その挙句に俺なんぞへ相談してるってのがある意味答えだと思うがな。
『それは…。』
『てめえがもぞもぞ落ち着けねぇの、ただの好意じゃあねぇのかもって話だろ?
焚きつけるのは野暮だからこれ以上は言わねぇし聞かねぇつもりだったが、
そうも言ってられねぇから訊くとだな、
例の効果からわいた心持ちだったらイヤだってのはどういうことか、
惑わされずに素直に考えてみな。』
『…。』
視線が泳ぐところがやはり素直で。
『敦から離れろと言われても飲めるのか?
俺に言われてどうにか出来んならともかくよ、
黙って距離をおけないから、
どうなんだろうかって聞いてほしくなったんじゃねぇのか?』
『…っ。』
受け入れたくはないこと、なので幾重にも否定となろう何かを得たかった。
気のせいだとか宥めてほしかったのだろうか。
純粋な好意ならならで、やはり褒められることでなしと後ろ暗さを何故だか覚え、
拒まれるのが怖かったのが綯い交ぜとなったか。
もはや自分でも判らない混乱を抱えていた彼なのだろて。
毅然としていてもそこはまだまだ10代のお隣、
そんな柔らかいところを持つ自分にこそ不慣れだったか、
慣れない感覚に戸惑いもひとしおというところなのだろて。
そんなところまで把握しておられたか、
ふふんと笑ってうなだれかかった背中をバンバンと叩くと、
『弟ってのはいなかったから、
俺としちゃあてめえにも離れられると詰まらねえ。』
もっとふてぶてしく居直れよと笑い、
『知ってたか?
敦はそこだけ前の名残りか、人を匂いで好き嫌い分けてるらしくてな。』
てめえのことも、
凛々しい性格とほのかな男くささの芽吹きのような、
そんなグリーンノートの香りがして、そばにいると落ち着くと言ってやがった。
そんな風に付け足して、にやにや笑ってくださった。
“……あれはどう解釈すればよかったものか。”
申し合わせたかのように、こちらも同じ桜と月を見やって、
悩める青年が別の窓辺で小さく吐息をついている。
とりあえず、今回の短期撮影ロケが終わったら、車を見繕いに出かける予定で。
それへ誘った敦がそりゃあはしゃいでいたのが自分でも嬉しいと。
十代の少年のよにじんわり噛みしめていた、もと裏社会の禍狗様だったりするのである。
〜 Fine 〜 26.04.07.
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*なんか中也さんは頼もしい兄貴というイメージがついつい出てしまいます。
特にCPは構えないつもりだったんですが、
芥敦というのが収まりもよさそうだなと思ってたり…。
*続編というか、ちょっと番外なお話。 → 「彼らの日常」

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